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ゾロアスター教入門

 

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 ゾロアスター教入門 (2)

 

 ゾロアスター教入門ということで、まず歴史的にお話し申し上げようと思っております。次には思想の話しをしようと思っております。最後に儀礼、儀式ですね、これについてもお話しし、歴史と思想と、儀礼というこの三つのものを三本の柱としてお話ししていきたいなとおもっております。で、今回は歴史的にゾロアスター教というものを、振り返ってみようということなんでございます。

 ゾロアスター教というのは、ゾロアスターという人の名前から来ているわけでございますね。ツァラトゥストラと、こうまぁニーチェはいった。原語ではザラスシュトラというのが、一番近いですけれども、一般にはゾロアスターといわれております。で、その人に基づく宗教で、ゾロアスター教というんですね。ところが教徒たちは、ゾロアスター教という名前を昔から使っているわけではないのです。彼らはなんと言っていたかというと、マズダヤスナというんですね。マズダというのは、ゾロアスター教の最高神であるところのアフラ・マズダーです。ヤスナというのは、祀るとか崇めるとかいう意味があるんです。要するに、マズダという神様を崇める宗教として、マズダ・ヤスナという言い方をしております。もう一つはデーンという言い方をするんですね。デーンというのは、これは「教え」という意味ですね。

 で、ウォフ・デーンという言い方をします。ウォフというのは、これは善いということです。つまり善い教えである、これが彼らの、自分たちの宗教に対する自称なんですね。先ずマズダという神様を崇める宗教であるということ。マズダ・ヤスナですね。それからもうひとつはウォフ・デーン、善き教えであると。それに対して彼ら自身がゾロアスター教という名前を使うことはあまりありませんでした。むしろ外部の人たちがゾロアスター教や、ゾロアスター教徒といったんで、ゾロアスター教ということになったんですね。

 また拝火教やfire worshiperというような言い方は、教徒がむしろ嫌がっていたということも注意すべき点です。なぜゾロアスター教で、火を崇めるのか。火を崇める意義というものについては、後でお話し申し上げますけれども、彼ら自身はいわゆる火を崇拝しているわけでは、決してないんだという言い方をします。火は彼らにとって、一種のシンボルではあるけれども、火そのものを神聖視しているんじゃないんだという。拝火教とかゾロアスター教とかいうよりも、善き教え、それはアフラ・マズダーを崇めることなのです。ところで、アフラ・マズダーというのは、ゾロアスターが初めていったことなんです。それまではアフラ・マズダーという言い形はない。ゾロアスターの教えというのは、いろいろな面がありますけれども、一つの大きな主張はアフラ・マズダーという神様を最高神として出したことなんです。これは非常に大切な点です。で、このアフラ・マズダーというのはそもそも何なのかといいますと、アフラ・マズダーのアフラというのは、主という意味です。マズダーというのは、これは智恵ということですね。したがって、智恵主ということになる。智恵の主ということ。その智恵主を崇拝する。しかし智恵主というような言い方をしますと、一般的すぎるんですね。そこで本来そのアフラ・マズダーという言い形で、彼らが呼んだものは、実はなんだったのかというのは、大きな問題なんです。そこらへんをはっきりさせるためには、ゾロアスターという人が、自らの宗教を唱えた、その背景ということを知らないといけない。

 開祖がはっきりしているものを、創唱宗教といいます。日本の神道なんていうのは、開祖がはっきりしていないですね。ユダヤ教も開祖というのはいないようです。預言者というのはいますけれども。その預言者というのは、未来を予言するとか、そういうものと違って、神の言葉を預かるという意味ですけれど。つまりイザヤとかいろんな人たちがいますけれども。それは開祖ではないわけです。そういう意味からいうと、現存している世界最古の創唱宗教がゾロアスター教なのです。ムハンマドのイスラームとか、お釈迦様、ゴーダマシッタールダの仏教とかですね、そういうような創唱宗教の中で現存し、世界最古のものはゾロアスター教なのだと、よくいわれます。しかし現存しない創唱宗教も歴史上は存在したわけです。最古のものはなにかといったら、これは非常に難しい問題です。私なんかはイクナトンつまりエジプトのアメンホテップですね。彼の太陽信仰というのが、まあ有力だなんて思っています。しかし現存はしていないんですね。そうするとともかく現在でも、おそらく5万くらいはゾロアスター教徒がいる。教徒数の数え方というのは種々あるんです。しかし伝統的な解釈ではだいたい16歳になるまで入信式を終えないと、ゾロアスター教徒とは認められないんです。その入信式というのは、両親がゾロアスター教徒なら一番いいんですけれども、お父さんがゾロアスター教徒の場合は認めます。しかし今のところ、お母さんがゾロアスター教徒で、異教徒と結婚した場合は、正式には認めていないわけです。そういうわけで、正式なゾロアスター教徒の人口は5万を割りつつあるんですね。しかし現存しているわけです。そういう意味から、現存の世界最古の創唱宗教がゾロアスター教であるというのは正しいわけです。ゾロアスターという開祖がいて、その開祖の説に基づいてゾロアスター教が出来上がっているということですね。

 その開祖たるゾロアスターが何を言ったかというと、まず、アフラ・マズダーというのを最高神として立てるわけです。智恵主、最高神アフラ・マズダーを立てるわけです。それに二元論というのがある。善と悪という、倫理の問題がある。最高神を立てて、そして倫理的な二元論、これが彼の中心思想なんですね。ところで、二元論とよく言われる。でも二元論というのは、いろいろな二元論があるんです。例えば、心と肉体の二元論というのがありますね。これはデカルトなんかが代表で、近代において有力な西洋的な二元論です。つまり精神と身体の二元論ですね。あるいは物と心の二元論といってもいい。さらに易というのがありますね。中国の易ですけれども、これは陰と陽の二元論ですね。プラスとマイナスみたいな。こういう二元論もある。

 ゾロアスター教でいう二元論は善と悪の二元論、倫理的な二元論です。この点を先ずはっきりさせておかないと、将来、いろいろな誤解が生じるんです。例えば、ゾロアスター教と同じく、二元論の代表とされるのに、マニ教というのがございます。でもマニ教とゾロアスター教は激しく敵対するんです。なぜ同じようなものが、敵と味方に分かれて争うのかということですね。それは二元論の考え方が根本的に違っているんです。マニ教の場合は、霊魂と肉体の二元論を表に出していきます。そしてそれに倫理的な二元論を絡めていきます。しかしゾロアスター教の場合は倫理的な二元論を、霊魂と肉体との二元論に結びつけようとはしません。そんな意味からも、ゾロアスターの二元論というのは、倫理的な二元論だということ、善と悪の二元論であるということを、まず頭におく必要があるのではないかと思います。

 そういう善と悪の二元論と共に、やはり一番大切なのは最高神としてアフラ・マズダーという存在を説くことです。ところでゾロアスターは宗教改革者として位置づけられることもあります。何もない状態から新たに創れないわけですね。彼は自分のいた精神的な環境において、一つの宗教を創るんですけれども。まったく何もないところから創るわけにいかないんで、それまでの古代のイラン人たちが信じていた宗教、神話というものを基にしながら、彼は自らの宗教を創唱していくわけですね。それがゾロアスター教となるわけです。そういう意味から言いますと、ゾロアスター教というのは、古代のイラン人の宗教改革運動だともいえるわけです。そうすると、宗教改革運動だというんであれば、ゾロアスター以前の宗教事情はどうだったかということも、知らなければいけない。ゾロアスター以前の古代イランの宗教事情がどうだったのか。そこにおいて彼が二元論をいう意味、彼が、最高神をアフラ・マズダーであるといった意味。これを理解することによって、ゾロアスター教の原点というものが分かってくる。つまりゾロアスター教の原点を分かるために古代イランの宗教事情というものを踏まえなければいけないわけです。そして、そのときに先ず出てくる問題が、アーリヤということなんです。イラン的にはアイルヤと、こう書く方がいいんですけれども。そのアーリヤ。なぜアーリヤか。アーリヤというのは民族だという言い方、それから語族という捉え方、いろいろあるんですけれども。

 実はアーリヤというのは非常に誤解を生みやすい概念なんです。それはご存知のように第二次大戦のときに、ドイツがアーリヤ民族ということを非常にいった。そして非常に悲劇的な結果を生んで、しかも大きな歴史の罪悪を残した。以来アーリヤというのはタブーに近いようなものとされた。ナチズム、アーリヤ、ヒットラーというような形で、非常に危ないものとして、考えられている。人種的偏見というようなものと結びついたわけですね。ところが彼らがいっているアーリヤと、私がいっているアーリヤというのは、まったく関係がないわけではないですけれども、同じではない。これはどういうことかと申しますと、まずアヴェスタというゾロアスター教の経典の中に、アーリヤという言葉は何度も出てきます。アルヤナ・ワエージャフ、すなわちアーリヤ人の土地とか、アーリヤの息子とかですね。アーリヤとトゥラーンというすなわちイラン系とトルコ系の民族が非常に多く出てくる。これは重要なことなんですね。

 それともう一つは、このアーリヤという言葉は、19世紀にものすごく発達した比較言語学というのに深い関係があります。この比較言語学というのは、最初はサンスクリット、古代のインドの言葉に目をつけて、そこからギリシア語、ラテン語との親縁関係とか、そういうものに気づいて、そして古代の文化というものがどのような関係にあって、どのように系統づけられるのかというところまで、応用できる、非常に進歩をした学問なのです。そしてこの比較言語学の中では、インド・ヨーロッパ語族というのを、立てるんですね。インド・ヨーロッパ語族というのは、これは諸説あるんですけれども、カスピ海と黒海の北側あたりに住んでいただろうといわれている。だいたいそれは2000年から3000年くらいと言われていますね。そのインド・ヨーロッパ語族がインドへ行ったと、このような仮説をするわけです。で、ヨーロッパへ行ったものがこれがギリシアとかラテンとかそれからスラブとかケルトとかですね、もちろんゲルマンなんかもそうですね。ドイツ語は、このゲルマンの代表的な言語です。そこで、このことを基にナチスの人たちは自らをインド・ヨーロッパ、すなわちアーリア民族と考えるわけです。しかし今ではこういう取り方をしない。ここでアーリアという時はヨーロッパには行かないで、アジアに残った人々を指します。そこから一方はインドに、他方はイランに入ったという形なんです。だからインド・イランというグループを指して、アーリアというんです。そこで、アーリアという言葉は、イラン人も自分たちの自称として使うわけです。

 そしてインドの方でも、バラモン教というのがあります。そして、このバラモン教にはヴェーだという聖典があります。その中で一番古いのはリグ・ヴェーダといいます。このリグ・ヴェーダというのは紀元前1500年くらいにできただろうといわれているんですけれども、その中でも、彼らはアーリヤという言葉を使っているんですね。またインドの場合は、古い時代から近代に到るまで、アーリアを自分たちの自称として使います。例えば自分の夫を、アーリア・プトラすなわちアーリアの息子という言い方をします。それからインド人は自分たちの国のことをアーリヤ・デーシャという言い方をします。さらに自分たちの言語はアーリヤ・バーシャです。

 そのインドに成立した仏教の中にも、このアーリヤというのは非常に重要な言葉として出てきます。例えば観音様というのがいますね。観音にはいろいろな観音がいます。千手観音とか、馬頭観音とかいろいろいます。その中に聖観音というのがいますね。これは一番原型的な観音だといわれています。それがアーリヤ・アバローキテーシュヴァラと申します。アーリヤというのがつくんですね。それから例えば親鸞聖人などというときの聖人。これはアーリヤですね。それから聖徳太子というのがいます。それはアーリヤ・ターという、抽象名詞になるんです。これは仏典の中にあります。このようにアーリヤという言葉は、いろいろ出てくるんです。

 そもそもこのインド・ヨーロッパ語族というのは、ヨーロッパの方とそれからアジアの方に別れ、そのアジアの方がしばらく同じ場所で生活して、そしてさらに一方はインド、他方はイランに移っていくわけです。インド人とイラン人の祖先は非常に近いところに隣りあった関係にいたか、または一緒に住んでいた時期があるんですね。その彼らをアーリア人という。そしてこの彼らの神話、宗教ということを知ることによって、そこからゾロアスターの改革の意味が明らかになる。この改革によって、インドとイランというのはまったく違った形の精神文化を形成するようになるんです。インドとイランが同じ先祖を持ちながら、そして言語においても非常に似ておりながら、それにも関わらず、精神的には正反対ともいえる文化的パターンを示していきます。

 インドの方では、いわゆる一元論あるいは汎神論的な傾向が非常に強いです。そして神秘的な傾向を持っています。それに対して、イランの方では二元論という闘争的な思想が出てきます。しかも実際的なものを非常に重んじます。このようにインドとイランではだいぶ、精神的な構造が違ってくるんですね。ところで、その違いは、ゾロアスターという人の改革によってなされたのか、それとも二つに分かれるということを背景にして、ゾロアスターが出てきたのか、これはちょっと難しい問題なんです。諸説ありまして、どっちとも決定できないというのが無難です。そもそも歴史的な事実ということに止まらないで、精神的にインドとイランが別れたということの背景にあったのは何だったのか。そして、その何かがどのようにしてゾロアスターという人物を生んだのか。そしてゾロアスターという人物が出てきて、インドとイランは、おのおの別の運命をたどることになっていくわけですね。

 

():この講演は,20074月に横浜で行われた. 

 

 

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