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ゾロアスター教入門

 

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ゾロアスター教入門(8)

  ミトラ神はアーリアの古来の神人なんです。アフラ・マズダーの原型といわれるヴァルナという神がいますけれども、このヴァルナーに匹敵する大神なんです。おもしろいことにアーリア人というのは、神様を「双神」という形で信仰する特徴があるんですね。一つのペアとしてですね、ミトラとヴァルナー(ミトラ—ヴァルナー)という言い方をしますけれども、これはミトラとヴァルナーを一つにつなげて、文法上では双数形と言うんです。英語なんて見ますと単数と複数しかないですよね。複数の場合、sだけつければいいですよね。ところがアーリアの古代の言葉には、さらに双数形というのがあって、これは別の形なんです。このミトラ—ヴァルナーというのはまさに双数形で出てくるんです。ミトラ神とヴァルナ神という二つのものが一緒になった形で出てくるわけです。これがアーリアの、おそらく最高神で、さも古い形であると言われている。

 で、このミトラ—ヴァルナーについては、有名な神話学者、二十世紀最大の神話学者と言われていますけれども、デュメジルという人の詳細な研究がございます。そしてミトラ—ヴァルナー、この双神、ペアの神様の中のヴァルナを、あえてその名前を呼ばずに、アフラ・マズダーという智恵主というかたちで崇めたのがゾロアスターなんです。ところがこのペアのミトラの方はゾロアスターによって封印されます。表に出さないんです。なぜそうしたのかといいますとですね、いろいろな問題があるんですけれども、これはミトラというものが持っていた反秩序的な面に関係があるんです。ミトラというのはいろんな面があるんですけれども、秩序、ようするにコスモスに対して、混乱というカオス的な面がある。ミトラというのは一方では、確かに契約という面とか友情という面とかありますけれども、本来はそれに反対する面も持った、両義的性格なんです。特に古い時代のミトラというのは、男性結社と申しますか、いわゆるマッチョがお祭り騒ぎをする集団に非常に関係があるんです。現代でも暴走族が成人式に乱暴してお祭り騒ぎする、みたいなことございますね。そういうようなものが、古来からあるんです。男性結社と申しますけれども、男の暴走行為ですね。暴走というのは社会的にお祭り騒ぎをすることなんです。

 アーリアというのは元々ですね、男の社会なんです。そこでは宗教も男性中心なわけです。そしてその男の中にもですね、非常に秩序を重んじ、品行方正な男と、マッチョで何かやったらわーっと暴れちゃうというのと、二つのタイプがいるわけですよね。これは社会や文化においても秩序を重んじる場合と、それからお祭り騒ぎをするみたいな、日常から逸脱するみたいな、二つの面があって、そこにリズムがございますね。宗教学的には、これを聖なるものと俗なるものという言い方をして、二つに分けますけれども、秩序が単に俗なるものとはいえない面がございますし、聖なるものの中にも秩序というものがございますから、必ずしも聖俗イコール秩序と反秩序とは言えないのです。しかし、いわゆる社会的な秩序を保ちながらやっていると、かたっくるしくてどうしようもない。どこかで逸脱して、エネルギーを爆発させてガス抜きをして、また社会的な秩序に戻るというのが、これが人間の原型にある。これができなくなってくると、社会も人間もおかしくなってくる。しょっちゅう緊張状態でやっていると、どっかで疲れてパンクしちゃったりするわけです。今、多いですね、そういう人が、どこかでばーんと発散できない。ところが一回そうなると、もう元に戻れないという人たちもいますよね。朝から晩まで、365日をお祭り的なことをやっているのが歌舞伎町あたりにいます。秩序がない世界で、あんなことずーっとやっていたら完全におかしくなる。そうかといって品行方正で朝から晩までいるのもおかしい。とりあえずどこかで一度、緊張をといて、ハメをはずして、また日常の規則正しい生活に戻るという、これが人間の文化、宗教の営みの原型なんですね。こういう二面があって、全体として一つなんです。そうすると、どちらかというと緊張で秩序の面がヴァルナという神で、アフラ・マズダーの元になった。それに対して、わーっと暴走するときがミトラの面なんですね。ところがゾロアスターという人は道徳を重んじる性格ですから、この反道徳的ないわゆる価値の超越と申す性格面を、無視したんです。否、無視したというか警戒して表に出さなかったんです。むしろそれを悪的なものとして退けようとする。

 しかし、それではどうも堅苦しくてしょうがない、ということになってまいりますから、結局このミトラというものの持っている一種のエネルギーの爆発的なものが復興して参ります。で、これがゾロアスター教の歴史における、ミスラ神の復興という形で出てくる。そしてそこに戦争が結びつきます。ミスラというのはいろいろな性格を持っているんですけれども、その重要な性格の一つは戦神というものです。戦争というのはまさにお祭りなんですね。エネルギーを爆発させて、今までの秩序をぶっ壊すきっかけになる。そしてやがて平和に戻り、秩序の保たれた新しい社会が来るわけなんです。しかしずーっと平和状態でいると秩序が弛緩してくる。緩んでくると各自が勝手に欲望を膨らませ、それと同時に不満も高まる。するとどこかでこのエネルギーを爆発させて、戦争しなければいけなくなる。そしてまた平和に戻る。こういうリズムが本来あったんですけれども、ゾロアスターはどちらかというと、今、申しましたように秩序の面だけを強調しましたから、ミスラの面はむしろ危ないものとして切り捨てられた。これがゾロアスターによってミスラが無視されたということの意味なんです。

 それとまた深く関係しておりますけれども、水の女神のアナーヒターの問題がある。アナーヒターという女神もミスラと同様に、その性格に両義的な面がある。古来、メソポタミアには大女神の信仰というのがありました。これは本来は地母神なんですけれども、土と水というのは両方とも植物に関係して、生命力を更新させるものとしての意義がある。そこで両者は交換が可能なんです。水と大地は女性的なものとして、ものを育む生命力の源泉として非常に、これは重視される。メソポタミアの場合は、大地の神としての女神信仰がセム民族の中にありました。大地母神のイシュタルなんていう神はそうですね。彼女は金星の神だともいわれているんですけれども、その原型にあるのはエジプトのイシスなどと同様なアーキタイプとしての女性です。それが大地母神です。生命力の源である母なるものですね。この神の信仰が非常に盛んだった。

 ところがですね、この女神も実は男の暴走とはちょっと違うんですけれども、カオスと非常に関係しているんですね。これはデメテルというようなものが、ギリシアにありますけれども、これも大地母神です。この大地母神のお祭りというのは、女たちが狂乱して、今までの秩序をひっくり返すんですね。子供まで食べたとか、食べないとかというような話がありますけれども、ともかく荒れ狂ったように女たちが暴れ回ったといいますね。それをやって女の持っている強烈なエネルギーを解放する。日本人は女の人はしとやかで受け身だと思っていますけれども、どうもそうではないらしいです。神話的に見る限り。男はある面では受け身ですね。秩序を重んじます。規制から逸脱することは得意ではないようです。しかし女の人は狂気に近い状態になると何やらかすかわからない。とてつもないエネルギーを秘めているらしいです。

 これが大地母神の神話中のカオスです。秩序すなわちコスモスに対するカオスです。この対立があって、コスモスという宇宙の秩序が回復される。つまりカオスという混乱状態がないと、自然の生命力は枯渇してしまう、乾涸びてしまう。それで一定の時期にお祭りをして、その混乱状態を利用して、再び秩序を回復して行くわけですね。そしてエネルギーを充電し、そしてまた日常に戻る。これが自然の生命力を維持するやり方なんだというのが、人間の根本的な信仰なんです。それでこの生命力を回復するために、一度秩序をぶっ壊して、ぐちゃぐちゃにして、手の付けられない状態を作ることが必要なんですね。で、これを西アジアの方では、さらにギリシアの方では女性信仰と結びつけてきたわけです。女神という生命力の根元と、それに結びつくカオスの状態を経て、宇宙のサイクルを回復させてやってきたわけです。

(以上は2007年の春の講義を抄録したものです)

  

 

 

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