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ゾロアスター教入門

 

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ゾロアスター教入門(9)

 したがってここでは特に性的なんですね。ミスラは戦いですけれども、アナーヒターの場合は生ですね。生むという性の問題。そして一夫一妻制なんていうのは、男が秩序を維持するために無理して作ったんだって言う説もあります。で、本来は乱婚だったと主張する人もいる。それが本当か嘘か知りませんけれどもね。しかし生というものは、本来は特定の個人に結びつくような、そんなものではなくて、もっとぐちゃぐちゃした、変幻自在のエネルギーのようなものであるのです。ともかく生むことにまつわる性の問題。それから死をもたらす戦争という問題。この二つが重要です。そして両者は広い意味でともに祭りなんです。祭りの中には必ずけんかがありますよね。野蛮みたいですけど、その日だけは大目に見るということですね。けんかみたいなことをやって、神輿でもひっくり返してしまう。でも365日やっているわけではないですよね。祭りの日に限ってやっているわけです。これが生のエネルギーなんです。いわゆる祭り的な混乱状態、カオス状態と言うものには、時には死をもたらす危険な面もある。つまり生と死は、一つのネネルギー状態の中で結びついているんです。

 アナーヒターというのはセム系の大地母神の傾向をもっています。それに対してアーリヤの男性結社的な性格の有るミトラの問題。この両者の神の指向するものをゾロアスターは警戒したんです。つまり、彼の目指した秩序の脅威になるんだと。彼は新たな秩序を指向したのです。今までの秩序というものを疑問視し、それが無力だということを経験しました。既製の社会が混乱し、弱いものが虐げられ、いろんな面でどうしようもなくなっている時に、新たな秩序を打ち立てることによって社会を安定させようとしたのが、ゾロアスターです。

 しかしそういう秩序が一度、ダリウスみたいな政治的天才によって実現すると、今度はその堅苦しさに耐えきれなくなってくる。すると再びぐちゃぐちゃなのもいいじゃないかというような、かえって秩序のありがたみということが忘れ去られていくことも生じる。日常においてもこれはよくあることであって、そして秩序というものの箍が緩んでき始める。そして一番恐れていたことが生じてくる。これがミトラ神とアナーヒター女神の領域なんです。女、大地母神、性に結びつくカオス。それと男のマッチョな暴走行為、戦争、これが出てくる。ところがこれらはゾロアスター教でいう神聖なものとはちょっと違うんですけれども、宗教学的な意味では聖なるものの典型ではあるわけですよ。宗教学で聖なるものと言った場合に、この祭り、非日常、それからカオス、こういうものと結びついております。こういう聖なるもの、非日常的なもの、そしてまたそれによって、日常が回復されるきっかけとなるものですね、これが再びゾロアスター教の中に導入されてくる。従ってこれはゾロアスター先生に対して、私にとってはゾロアスターというのは3000年前の先生みたいなものですから、失礼な言い方になるかもしれませんけど、先生の教えはやはり倫理的な傾向が強かったんで、それだけではどうも人間と言うのは満足できないのではないですかと、問うわけです。

 やはり宗教という次元で考えると、後のゾロアスター教の、開祖の教えに反するようなマッチョなものとか、性的なものとか、有る面の逸脱と言うものをもたらす神であるミトラとかアナーヒターとかいうものを取り入れて、一つの宗教が出来上がっていった。これはゾロアスター教が宗教としてやっていくためには避けられなかったことなのですね。でも宗教としてのゾロアスター教と真実のゾロアスターの教えは、そうなると色々な面で齟齬が生じてくることも事実です。それはしょうがないことであって、ゾロアスター教に限らず、あらゆる宗教がそうだと思うんですね。開祖の考えた倫理的、哲学的な教えというもの、それだけで宗教が成り立っているわけではけっしてないのですから。現実の歴史の中で、現実の人間の生活の営みの中で、一つの宗教となっていくためには、いろいろなものを包み込みながら、それをいかに浄化していくか、それが大切なことなんです。それによって混乱せずに一つの見事な形に仕上げていく。これが真の意味で宗教の発展ではないかと思うんですね。それはなかなか難しいことだと思いますけれども。そういう意味では、ゾロアスター教も開祖が否定した、あるいは無視していろんなものが入っています。

 アケメネス朝で、ゾロアスターの教えが一度確立しながら、しかもその後に再びこういう傾向が起きたのはなぜなのかということも、以上、述べたようなことを考えれば、それなりに理解できるのではないかという気がいたします。

(以上は2007年の春の講義を抄録したものです)

 

 

 

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